Pc--707 #1高僧和讃   高僧和讃 高僧和讃   愚禿親鸞作 #2龍樹讃 龍樹菩薩 付釈文 十首 (1) 本師龍樹菩薩は  智度十住毘婆娑等  つくりておほく西をほめ  すゝめて念仏せしめたり D-- (2) 南天竺に比丘あらん  龍樹菩薩となつくへし  有無の邪見を破すへしと  世尊はかねてときたまふ (3) 本師龍樹菩薩は  大乗無上の法をとき  歓喜地を証してそ  ひとへに念仏すゝめける D-- (4) 龍樹大士世にいてゝ  難行易行のみちおしへ  流転輪廻のわれらをは  弘誓のふねにのせたまふ (5) 本師龍樹菩薩の  おしへをつたへきかんひと  本願こゝろにかけしめて  つねに弥陀を称すへし P--708 (6) 不退のくらゐすみやかに  えんとおもはんひとはみな  恭敬の心に執持して  弥陀の名号称すへし (7) 生死の苦海ほとりなし  ひさしくしつめるわれらをは  弥陀弘誓のふねのみそ  のせてかならすわたしける (8) 智度論にのたまはく  如来は無上法皇なり  菩薩は法臣としたまひて  尊重すへきは世尊なり D-- (9) 一切菩薩ののたまはく  われら因地にありしとき  無量劫をへめくりて  万善諸行を修せしかと (10) 恩愛はなはたたちかたく  生死はなはたつきかたし  念仏三昧行してそ  罪障を滅し度脱せし    已上龍樹菩薩 #2天親讃 天親菩薩 付釈文 十首 D-- (11) 釈迦の教法おほけれと  天親菩薩はねんころに  煩悩成就のわれらには  弥陀の弘誓をすゝめしむ (12) 安養浄土の荘厳は  唯仏与仏の知見なり  究竟せること虚空にして  広大にして辺際なし (13) 本願力にあひぬれは  むなしくすくるひとそなき  功徳の宝海みち〜て  煩悩の濁水へたてなし P--709 (14) 如来浄華の聖衆は  正覚のはなより化生して  衆生の願楽こと〜く  すみやかにとく満足す (15) 天人不動の聖衆は  弘誓の智海より生す  心業の功徳清浄にて  虚空のことく差別なし (16) 天親論主は一心に  無礙光に帰命す  本願力に乗すれは  報土にいたるとのへたまふ D-- (17) 尽十方の無礙光仏  一心に帰命するをこそ  天親論主のみことには  願作仏心とのへたまへ (18) 願作仏の心はこれ  度衆生のこゝろなり  度衆生の心はこれ  利他真実の信心なり (19) 信心すなはち一心なり  一心すなはち金剛心  金剛心は菩提心  この心すなはち他力なり D-- (20) 願土にいたれはすみやかに  無上涅槃を証してそ  すなはち大悲をおこすなり  これを廻向となつけたり    已上天親菩薩 #2曇鸞讃 曇鸞和尚 付釈文 三十四首 (21) 本師曇鸞和尚は  菩提流支のおしへにて  仙経なかくやきすてゝ  浄土にふかく帰せしめき P--710 (22) 四論の講説さしおきて  本願他力をときたまひ  具縛の凡衆をみちひきて  涅槃のかとにそいらしめし (23) 世俗の君子幸臨し  勅して浄土のゆへをとふ  十方仏国浄土なり  なにゝよりてか西にある (24) 鸞師こたへてのたまはく  わか身は智慧あさくして  いまた地位にいらされは  念力ひとしくおよはれす D-- (25) 一切道俗もろともに  帰すへきところそさらになき  安楽勧帰のこゝろさし  鸞師ひとりさためたり (26) 魏の主勅して并州の  大巌寺にそおはしける  やうやくおはりにのそみては  汾州にうつりたまひにき (27) 魏の天子はたふとみて  神鸞とこそ号せしか  おはせしところのその名をは  鸞公巌とそなつけたる D-- (28) 浄業さかりにすゝめつゝ  玄忠寺にそおはしける  魏の興和四年に  遥山寺にこそうつりしか (29) 六十有七ときいたり  浄土の往生とけたまふ  そのとき霊瑞不思議にて  一切道俗帰敬しき (30) 君子ひとへにおもくして  勅宣くたしてたちまちに  汾州汾西秦陵の  勝地に霊廟たてたまふ P--711 (31) 天親菩薩のみことをも  鸞師ときのへたまはすは  他力広大威徳の  心行いかてかさとらまし (32) 本願円頓一乗は  逆悪摂すと信知して  煩悩菩提体無二と  すみやかにとくさとらしむ (33) いつゝの不思議をとくなかに  仏法不思議にしくそなき  仏法不思議といふことは  弥陀の弘誓になつけたり D-- (34) 弥陀の廻向成就して  往相還相ふたつなり  これらの廻向によりてこそ  心行ともにえしむなれ (35) 往相の廻向ととくことは  弥陀の方便ときいたり  悲願の信行えしむれは  生死すなはち涅槃なり (36) 還相の廻向ととくことは  利他教化の果をえしめ  すなはち諸有に廻入して  普賢の徳を修するなり D-- (37) 論主の一心ととけるをは  曇鸞大師のみことには  煩悩成就のわれらか  他力の信とのへたまふ (38) 尽十方の無礙光は  無明のやみをてらしつゝ  一念歓喜するひとを  かならす滅度にいたらしむ (39) 無礙光の利益より  威徳広大の信をえて  かならす煩悩のこほりとけ  すなはち菩提のみつとなる P--712 (40) 罪障功徳の体となる  こほりとみつのことくにて  こほりおほきにみつおほし  さはりおほきに徳おほし (41) 名号不思議の海水は  逆謗の屍骸もとゝまらす  衆悪の万川帰しぬれは  功徳のうしほに一味なり (42) 尽十方無礙光の  大悲大願の海水に  煩悩の衆流帰しぬれは  智慧のうしほに一味なり D-- (43) 安楽仏国に生するは  畢竟成仏の道路にて  無上の方便なりけれは  諸仏浄土をすゝめけり (44) 諸仏三業荘厳して  畢竟平等なることは  衆生虚誑の身口意を  治せんかためとのへたまふ (45) 安楽仏国にいたるには  無上宝珠の名号と  真実信心ひとつにて  無別道故とときたまふ D-- (46) 如来清浄本願の  無生の生なりけれは  本則三三の品なれと  一二もかはることそなき (47) 無礙光如来の名号と  かの光明智相とは  無明長夜の闇を破し  衆生の志願をみてたまふ (48) 不如実修行といへること  鸞師釈してのたまはく  一者信心あつからす  若存若亡するゆへに P--713 (49) 二者信心一ならす  決定なきゆへなれは  三者信心相続せす  余念間故とのへたまふ (50) 三信展転相成す  行者こゝろをとゝむへし  信心あつからさるゆへに  決定の信なかりけり (51) 決定の信なきゆへに  念相続せさるなり  念相続せさるゆへ  決定の信をえさるなり D-- (52) 決定の信をえさるゆへ  信心不淳とのへたまふ  如実修行相応は  信心ひとつにさためたり (53) 万行諸善の小路より  本願一実の大道に  帰入しぬれは涅槃の  さとりはすなはちひらくなり (54) 本師曇鸞大師をは  梁の天子蕭王は  おはせしかたにつねにむき  巒菩薩とそ礼しける D--    已上曇鸞和尚 #2道綽讃 道綽禅師 付釈文 七首 (55) 本師道綽禅師は  聖道万行さしおきて  唯有浄土一門を  通入すへきみちととく (56) 本師道綽大師は  涅槃の広業さしおきて  本願他力をたのみつゝ  五濁の群生すゝめしむ P--714 (57) 末法五濁の衆生は  聖道の修行せしむとも  ひとりも証をえしとこそ  教主世尊はときたまへ (58) 巒師のおしへをうけつたへ  綽和尚はもろともに  在此起心立行は  此是自力とさためたり (59) 濁世の起悪造罪は  暴風駛雨にことならす  諸仏これらをあはれみて  すゝめて浄土に帰せしめり D-- (60) 一形悪をつくれとも  専精にこゝろをかけしめて  つねに念仏せしむれは  諸障自然にのそこりぬ (61) 縦令一生造悪の  衆生引接のためにとて  称我名字と願しつゝ  若不生者とちかひたり    已上道綽大師 #2善導讃 善導大師 付釈文 二十六首 D-- (62) 大心海より化してこそ  善導和尚とおはしけれ  末代濁世のためにとて  十方諸仏に証をこふ (63) 世世に善導いてたまひ  法照少康としめしつゝ  功徳蔵をひらきてそ  諸仏の本意とけたまふ (64) 弥陀の名願によらされは  百千万劫すくれとも  いつゝのさはりはなれねは  女身をいかてか転すへき P--715 (65) 釈迦は要門ひらきつゝ  定散諸機をこしらへて  正雑二行方便し  ひとへに専修をすゝめしむ (66) 助正ならへて修するをは  すなはち雑修となつけたり  一心をえさるひとなれは  仏恩報するこゝろなし (67) 仏号むねと修すれとも  現世をいのる行者をは  これも雑修となつけてそ  千中無一ときらはるゝ D-- (68) こゝろはひとつにあらねとも  雑行雑修これにたり  浄土の行にあらぬをは  ひとへに雑行となつけたり (69) 善導大師証をこひ  定散二心をひるかへし  貪瞋二河の譬喩をとき  弘願の信心守護せしむ (70) 経道滅尽ときいたり  如来出世の本意なる  弘願真宗にあひぬれは  凡夫念してさとるなり D-- (71) 仏法力の不思議には  諸邪業繋さはらねは  弥陀の本弘誓願を  増上縁となつけたり (72) 願力成就の報土には  自力の心行いたらねは  大小聖人みななから  如来の弘誓に乗すなり (73) 煩悩具足と信知して  本願力に乗すれは  すなはち穢身すてはてゝ  法性常楽証せしむ P--716 (74) 釈迦弥陀は慈悲の父母  種種に善巧方便し  われらか無上の信心を  発起せしめたまひけり (75) 真心徹到するひとは  金剛心なりけれは  三品の懺悔するひとゝ  ひとしと宗師はのたまへり (76) 五濁悪世のわれらこそ  金剛の信心はかりにて  なかく生死をすてはてゝ  自然の浄土にいたるなれ D-- (77) 金剛堅固の信心の  さたまるときをまちえてそ  弥陀の心光摂護して  なかく生死をへたてける (78) 真実信心えさるをは  一心かけぬとおしへたり  一心かけたるひとはみな  三信具せすとおもふへし (79) 利他の信楽うるひとは  願に相応するゆへに  教と仏語にしたかへは  外の雑縁さらになし D-- (80) 真宗念仏きゝえつゝ  一念無疑なるをこそ  希有最勝人とほめ  正念をうとはさためたれ (81) 本願相応せさるゆへ  雑縁きたりみたるなり  信心乱失するをこそ  正念うすとはのへたまへ (82) 信は願より生すれは  念仏成仏自然なり  自然はすなはち報土なり  証大涅槃うたかはす P--717 (83) 五濁増のときいたり  疑謗のともからおほくして  道俗ともにあひきらひ  修するをみてはあたをなす (84) 本願毀滅のともからは  生盲闡提となつけたり  大地微塵劫をへて  なかく三塗にしつむなり (85) 西路を指授せしかとも  自障障他せしほとに  曠劫已来もいたつらに  むなしくこそはすきにけれ D-- (86) 弘誓のちからをかふらすは  いつれのときにか娑婆をいてん  仏恩ふかくおもひつゝ  つねに弥陀を念すへし (87) 娑婆永劫の苦をすてゝ  浄土無為を期すること  本師釈迦のちからなり  長時に慈恩を報すへし    已上善導大師 #2源信讃 源信大師 付釈文 十首 D-- (88) 源信和尚ののたまはく  われこれ故仏とあらはれて  化縁すてにつきぬれは  本土にかへるとしめしけり (89) 本師源信ねんころに  一代仏教のそのなかに  念仏一門ひらきてそ  濁世末代おしへける (90) 霊山聴衆とおはしける  源信僧都のおしへには  報化二土をおしへてそ  専雑の得失さためたる P--718 (91) 本師源信和尚は  懐感禅師の釈により  処胎経をひらきてそ  懈慢界をはあらはせる (92) 専修のひとをほむるには  千無一失とおしへたり  雑修のひとをきらふには  万不一生とのへたまふ (93) 報の浄土の往生は  おほからすとそあらはせる  化土にむまるゝ衆生をは  すくなからすとおしへたり D-- (94) 男女貴賤こと〜く  弥陀の名号称するに  行住座臥もえらはれす  時処諸縁もさはりなし (95) 煩悩にまなこさへられて  摂取の光明みされとも  大悲ものうきことなくて  つねにわか身をてらすなり (96) 弥陀の報土をねかふひと  外儀のすかたはことなりと  本願名号信受して  寤寐にわするゝことなかれ D-- (97) 極悪深重の衆生は  他の方便さらになし  ひとへに弥陀を称してそ  浄土にむまるとのへたまふ    已上源信大師 #2源空讃 源空聖人 付釈文 二十首 (98) 本師源空世にいてゝ  弘願の一乗ひろめつゝ  日本一州こと〜く  浄土の機縁あらはれぬ P--719 (99) 智慧光のちからより  本師源空あらはれて  浄土真宗をひらきつゝ  選択本願のへたまふ (100) 善導源信すゝむとも  本師源空ひろめすは  片州濁世のともからは  いかてか真宗をさとらまし (101) 曠劫多生のあひたにも  出離の強縁しらさりき  本師源空いまさすは  このたひむなしくすきなまし D-- (102) 源空三五のよはひにて  無常のことはりさとりつゝ  厭離の素懐をあらはして  菩提のみちにそいらしめし (103) 源空智行の至徳には  聖道諸宗の師主も  みなもろともに帰せしめて  一心金剛の戒師とす (104) 源空存在せしときに  金色の光明はなたしむ  禅定博陸まのあたり  拝見せしめたまひけり D-- (105) 本師源空の本地をは  世俗のひと〜あひつたへ  綽和尚と称せしめ  あるひは善導としめしけり (106) 源空勢至と示現し  あるひは弥陀と顕現す  上皇群臣尊敬し  京夷庶民欽仰す (107) 承久の太上法皇は  本師源空を帰敬しき  釈門儒林みなともに  ひとしく真宗に悟入せり P--720 (108) 諸仏方便ときいたり  源空ひしりとしめしつゝ  無上の信心おしへてそ  涅槃のかとをはひらきける (109) 真の知識にあふことは  かたきかなかになをかたし  流転輪廻のきはなきは  疑情のさはりにしくそなき (110) 源空光明はなたしめ  門徒につねにみせしめき  賢哲愚夫もえらはれす  豪貴鄙賤もへたてなし D-- (111) 命終その期ちかつきて  本師源空のたまはく  往生みたひになりぬるに  このたひことにとけやすし (112) 源空みつからのたまはく  霊山会上にありしとき  声聞僧にましはりて  頭陀を行して化度せしむ (113) 粟散片州に誕生して  念仏宗をひろめしむ  衆生化度のためにとて  この土にたひ〜きたらしむ D-- (114) 阿弥陀如来化してこそ  本師源空としめしけれ  化縁すてにつきぬれは  浄土にかへりたまひにき (115) 本師源空のおはりには  光明紫雲のことくなり  音楽哀婉雅亮にて  異香みきりに映芳す (116) 道俗男女預参し  卿上雲客群集す  頭北面西右脇にて  如来涅槃の儀をまもる P--721 (117) 本師源空命終時  建暦第二壬申歳  初春下旬第五日  浄土に還帰せしめけり    已上源空聖人 #1高僧和讃 已上七高僧和讃{一百十七首} #2結讃 (118) 五濁悪世の衆生の  選択本願信すれは  不可称不可説不可思議の  功徳は行者の身にみてり D-- 天竺 {龍樹菩薩 天親菩薩} 震旦 {曇鸞和尚 道綽禅師 善導禅師} 和朝 {源信和尚 源空聖人}{已上七人} 聖徳太子 {敏達天皇元年 正月一日誕生} 当仏滅後一千五百二十一年也 (119) 南無阿弥陀仏をとけるには  衆善海水のことくなり  かの清浄の善身にえたり  ひとしく衆生に廻向せん D--